差し入れの乳飲料からは味がしなかった

上司が初めて残業中に差し入れをくれた。

けれど厳密にいうと、それは私に対して渡したかったものではない。

 

正確には私の同期をねぎらうために一緒に渡してくれたものだったのだ。

私は今、システム会社のテクニカルサポートの部署に所属している。

 

しかし、私はテクニカルサポートの仕事をしていない。

顧客からくる問合せの電話をひたすらとって、聞いた内容を記録するだけだ。

 

この会社にはいって半年が経過した。

本来であれば、顧客から聞いた内容を記録する仕事ではなく、

記録された内容について対応し、答えていく仕事をしている時期である。

 

同期はすでに聞いた内容について周囲の先輩にアドバイスをもらい、

試行錯誤しながら顧客からの問合せに答え、立派な戦力となっている。

 

しかし、私は何をしくじったのか、いまだに入社当時の仕事をこなしている日々だ。

電話受付の時間が過ぎれば、電話はこないので残業は発生しない。

 

そんな中で、上司は差し入れを持ってきたのだ。

 

ビニール袋に入ったチョコ菓子と、ヨーグルトドリンクを見て、とっさに私は上司と同期に対して謝った。できる仕事が少なくて申し訳ないと。

 

突っ返すことも遠慮することも、受け取って喜ぶこともできなかった。

 

上司はいつも夜遅くまで残業をしている同期を労いたくて差し入れを持ってきたのだ。

ただ物を渡すという行為を社内で行うには、平等である必要がある。

だから私にも回ってきたのだ。

 

受け取った時、礼儀として一息でドリンクを飲み干してみた。

疲れていて甘い物はとても美味しく感じられるはずなのに、味を感じることはできず、飲み終わった後は、ただひたすら口の中にはなんとも言えない苦味だけが残った。

 

繁忙期を乗り越えたらこの会社から出よう、心からそう思った。